レポート
不確実性の高い経済や社会情勢の影響で、2019年は多くの企業幹部がリセッション対策に奔走しました。このような状況の中、上期の欧州およびアジアにおけるM&A件数は低調でしたが、下期には回復しています。一方で米国では、年初は好況でしたがやがて頭打ちになりました。2019年を通して見るとディール件数は前年比で2%減少しましたが、企業M&Aディールの最終合計額は前年比ほぼ横ばいの3.4兆米ドルに達しました。
ブレグジットと貿易戦争といった地政学的問題により、2019年は地域横断ディール件数が大幅に減少し、1~9月の実績は前年同期比マイナス31%となり、金額ベースでも3年連続減少となりました。また、社会的には資本主義の有効性に対する疑念や、増大し続ける大手テクノロジー企業の影響力に対する懸念から、規制当局のディール調査が厳粛化しました。規制当局は、ディール調査の範囲を市場統合だけでなく、データアクセス、国益、将来の競争に与えるインパクトにまで広げて検証するようになりました。
昨年のレポートでも紹介された通り、昨今は企業規模拡大のための「スケールディール」より、「スコープディール」と呼ばれる成長著しい事業分野への参入や、新規ケイパビリティ(デジタル等)の獲得を通し、既存事業やイノベーション創出を強化するためのディールが増えています。今では10億ドル超の戦略的ディールの約60%を「スコープディール」が占めています(2015年では40%)。
このトレンドは特に医療、テクノロジー、消費財業界を中心とするいくつかの業界において顕著で、成長促進のための新たなケイパビリティ、特にオムニチャネルにおける顧客体験、人工知能、ビッグデータアナリティクスやロボティクスといったデジタル化を強化するためのディールが多く含まれていました。
一方で、多くの業界では統合の自然限界に達しつつあり、ディール自体が承認されにくくなっているなか、スケールディールは依然として、業界でリーダー的な地位を獲得し、事業を拡大する手段として実績のある方法のひとつであると言えます。2019年9月までの1年間で、10億ドルを超えるディール全体の約40%をスケールディールが占めました。金融サービス、製造、天然資源など、まだ統合の余地がある多くの業界では、スケールディールは今もなお、短期的な収益目標のプレッシャーを回避するために有効な手段です。メディアや電気通信業界では、デジタル化による破壊的混乱を乗り越えるために企業統合を推し進め、規模を拡大して新たなケイパビリティに投資する動きが見られます。
このような状況の中、M&Aを成功させている企業は、各フェーズにおける取り組み方に下記のような特徴があることが分かりました。
1、M&Aのスクリーニング
新たなテクノロジーやビジネスモデルを特定すべく、広く市場を
モニターし把握している
2、デューディリジェンス
早い段階で関連する部署のメンバーを集めた部門横断チームを
組織し、デューディリジェンスの範囲を広げ、人・文化・能力の
理解に努めている
3、統合
機能面の統合だけでなく、共同の価値創出のために尽力している
4、事業売却
将来の成長戦略に合致しない事業は速やかに売却し、売却で得た
利益や確保できるようになった時間、人材等を新たな成長事業に
投資している
M&Aを取り巻く環境が大きく変わる中、M&Aのアプローチも変化に併せて速やかに適応させることがディールを成功に導いています。
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